「美術品/日本画」修復・保存

お知らせ
2025/02/12

過去のブログ紹介 涅槃図の修復 1

過去のブログ紹介 涅槃図の修復 1
過去のブログ紹介、今回は涅槃図の修復についてです。

掛け軸「涅槃図」を、所有者のご厚意により作業工程をご紹介いたします。

個人所有の紙本着色掛軸装「涅槃図」です。大きさは以下の通り。
 本紙寸法:縦 141cm、横 172cm
 全体寸法:縦 159cm、横 241cm
 大きいと思われるでしょうが、涅槃図としては並の大きさです。
でも、写真の通りウチの作業場では下が床に付いてしまいます。


本当は解体して、全体修復を行いたいところなのですが、
今回はこれ以上損傷が広がらないようにし、飾れる状態にするための
最小限の修復に留めました。
従って修理方針としては、作品の部分処置に留め、
本紙のドライクリーニング、折れ伏せ入れ、裂の剥がれ、
浮きを修正することとしました。
また、中性紙の紙筒による太巻き芯(軸棒より太い筒で巻き、
折れを軽減するもの)を付け、布張り中性紙ケースで
保存するように決定し、所有者の了解を得ました。
さて、次回からは順を追って作業を公開していきましょう。

ブログ内でもご覧ください。

伝世舎blog日日是好日
2025/01/15

過去のブログ紹介 扁額(へんがく)の修復 4

過去のブログ紹介 扁額(へんがく)の修復 4
過去のブログ紹介、前回に続き扁額(へんがく)の修復4についてです。

前回は、具体的な処置について紹介いたしました。
今回は、最後の仕上げについてです。

さて、本紙が綺麗になったところで、最後の仕上げです。
今回は額を新調しますので、骨から作りました。
意外と地道な作業の連続です。

7.額装の仕立て
骨を新調しました。
パネルの下張り加工をします。

新調した縁裂(へりきれ)と小筋裂(こすじきれ)を調整します。
まず、新調した裂に肌裏打ちを行いました。
 ・肌裏打ち紙;薄美濃紙(長谷川聡製作 手漉き楮紙)
 ・接着剤;生麩糊(小麦澱粉糊)

本紙の裏面にから小筋の裂を付けます。

縁裂を付けた本紙を下張りパネルに張り込みます。
 ・接着剤;生麩糊(小麦澱粉糊)
裏面に裏貼り紙を貼りこみましだ。
 ・裏貼り紙;藍紙(藍染め楮紙)
 ・接着剤;生麩糊(小麦澱粉糊)


8.額の仕上げ
新調した吊り金具を装着しました。
縁木に新調した紫外線カットアクリル板を入れ、パネルを装着して仕上げました。


9.修復後の写真撮影、報告書の作成
修復後の写真を撮影し、報告書を作成します。


10.収納
・中性紙布貼りケースを新調して、収納しました。


○ 修復前

種 類:扁額装/絹本著色 
寸 法:(修復前) 額寸法 縦:460㎜×横:1263㎜
         画面寸法 縦:355㎜×横:985㎜
装 丁:扁額装
パネル:骨組子に下張り加工
縁木(ふち): 黒色塗装
        パネルと縁木は釘による装着
グレージング:なし
縁(へり) :砂子蒔き紙
覆輪(ふくりん):紫地紙(本紙周辺を縁取りしている紙)
裏貼り(裏面) :灰茶地紙


○ 修復後

種 類:扁額装/絹本著色 
寸 法:(修復後) 額寸法 縦:508㎜×横:1330㎜
         本紙寸法 縦:355㎜×横:988㎜
装 丁:扁額装
パネル:杉材骨組子 留め具サルコ付き 下張り加工(8層)(新調)
縁木(ふち)  : 艶消し黒本漆塗り (新調)
          パネルと縁木は留め具のサルコによる装着
グレージング  : 3㎜UVカットアクリル板
縁裂(へりきれ): 浅葱地斜子無地(新調)
小筋裂(こすじきれ): 白茶地龍紋本金襴(新調)
裏貼り(裏面)   : 藍紙(藍染め楮紙)
下張り層(骨組子に下張り8層の工程を行った)
骨縛り、胴貼り、蓑掛け(3層)、蓑縛り、袋貼り(下袋、上袋)2層
骨縛り、蓑掛け、蓑縛り、袋貼り;八女楮紙(溝田義秋製作 手漉き楮紙)
胴貼り;泥(タルク)入り楮紙(大勝敬文製作 手漉き楮紙)


写真と合わせた詳細はブログをご覧ください。

伝世舎blog日日是好日
2024/12/10

過去のブログ紹介 扁額(へんがく)の修復 3

過去のブログ紹介 扁額(へんがく)の修復 3
過去のブログ紹介、前回に続き扁額(へんがく)の修復3についてです。

前回は、額について紹介いたしました。
今回は、具体的な処置についてです。

1. 修復前の写真撮影、および状態調査
ここでしっかり調査をしないと、ちゃんとした修復方針が
立てられません。

2. 額装からの本紙の分離
作品を額装から外します。
本紙を傷つけないように丁寧に作業します。

3.本紙表面の処置
画面にドライクリーニングを行い、表面の汚れを除去しました。
その後、虫糞などの付着物を除去しました。
そして墨字部分と朱印に剥落止めとして、約2%膠水溶液(膠:板膠)
を塗布しました。

4.クリーニング
本紙全体にウェットクリーニングを行いました。
本紙を精製水で湿らせた吸い取り紙で挟み、クリーニングを行いました。
吸い取り紙に汚れを吸着させて、全体の水染みなどの汚れや斑点を軽減します。
吸い取り紙を取り替えて、同様に数回にわたりクリーニングを行いました。

5.旧裏打ち紙の除去
旧裏打ち紙を剥がします。

6.本紙の裏打ち
本紙に肌裏打ち(画像)と増裏打ち(画像)を行いました。
・肌裏打ち紙;矢車染め薄美濃紙(長谷川聡製作 手漉き楮紙)
・増裏打ち;八女楮紙(溝田義秋製作 手漉き楮紙)
・接着剤;生麩糊(小麦澱粉糊)


写真と合わせた詳細はブログをご覧ください。

伝世舎blog日日是好日