「美術品/日本画」修復・保存

伝世舎の伝えるもの

日本にある多くの美術品は、先人たちの「受け継ぎ、伝える」という強い想いのもと、“伝世品”として伝えられてきました。
そこには伝世品と共に脈々と伝わってきた技術があります。
作品の技の高さ、表具の技や材料・道具など、先人の素晴らしい技術が詰まっています。

伝統技術とは、決して固定化した技術を継承して来たものではありません。その時代に即して常に創意工夫がなされて発展してきました。
ただし、新たな技術を無条件に受け入れる訳ではなく、常に検証をし、遺すべき技術は遺し、受け入れるべき新技術は受け入れることが必要になってきます。
「故きを温ねて新しきを知る」この言葉がすべてを言い表しているのではないでしょうか。

作品を良好な状態で保存して伝えていく。私どもはこのことこそが重要だと考えております。
修復とは保存を考えるうえでの一つの方法でしかありません。それは、作品について尊敬の念を抱き、先人たちの想いに敬意を払うということになります。次代に遺す修復とは、次代の修復技術者へと作品を送り届けることでもあります。
今日まで受け継がれてきた作品を、適切な保存、修復により次の世代へと伝えること。私ども伝世舎は、そのためのお手伝いをさせていただきたいと考えております。

現在、「和紙」と呼ばれている紙には数多くの種類があり、原料・原料の加工・漉き方(手漉き・機械漉き)などによって様々な違いが出てきます。
和紙の原料には、主に楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)が用いられます。
ただし、紙の原料としては、他にも色々な種類(麻・竹・藁・木綿などの植物繊維や、針葉樹・広葉樹などの木材繊維など)があり、これらの原料をどのように加工して紙にするかによって、紙の表情や紙としての寿命なども違ってくるのです。

使う目的や用途に合わせて、適切な紙を選ぶことが重要です。

100年以上しなやかさを保つ紙もあれば、数十年も経たないうちに茶色に変色して粉々になってしまう紙もあります。長い年月に耐えられる紙は、それだけの手間がかけられているのです。
紙には一長一短があり、価格も様々です。使う側の目的や用途に合わせて、適切な紙を選ぶことが重要なのです。

和紙の原料・加工処理なども確認し、信頼できるものだけを使用します。

伝世舎では、原料や紙の加工処理などにもしっかり目を通し、充分に信頼できるデータを持つ紙だけを使っています。「作品を後世に遺す」という目的を考えれば、寿命が短く作品に危険を及ぼすような紙は使えません。作品を100年後に無事に送り届ける保証のないものは、避けるべきだと考えています。
また、作品の修理や装丁などの工程に応じて、紙の種類や厚さを使い分けることも大切です。特に作品の欠失部分に充てる紙は、その作品の風合いや表情にできるだけ近い紙を選んでいます。または、風合いを合わせるための加工などにも、その作品に合わせた紙を選んで使用しています。

特に使用頻度の高い紙をいくつか挙げておきます。
これらは国宝・重要文化財の修復に使用されている紙です。

薄美濃紙

薄手楮紙の代表で、透き通るほど薄いが頑丈な紙。絵画制作の他、本紙や絹の肌裏打ちに使用します。
産地は岐阜県美濃市。 長谷川 聡 制作 楮100%手漉き ソーダ灰炊き

薄美濃紙に関しては、下記URLをご参照ください。
美濃紙 長谷川和紙工房
http://www.minogami.com/
美濃紙の紹介、製造工程紹介等。

美栖紙

紙を漉いた後、直接干し板に張りつけて乾燥させ、柔軟に仕上げた楮紙(約25×64cm)です。
胡粉(牡蠣の一種であるイタボガキの貝殻を精製した白い粉)を混入させています。
掛軸の増裏打ち、厚み調整などに使用。産地は奈良県吉野郡。
上窪 良二 制作 楮100%手漉き 木灰炊き 胡粉入り

大判美栖紙

美栖紙より大判な美栖紙(約63.5×76cm)です。掛軸の増裏打ち、厚み調整などに使用。産地は奈良県吉野郡。
昆布 尊男 制作 楮100%手漉き 胡粉と白土入り

宇陀紙

表面が滑らかで引き締まった紙質の楮紙です。漉くときに白土(現地で産出する石灰岩を粉砕し、水干しして作ったもの)を混入させるため、紙面が白く、粉っぽい感触があります。掛軸の総裏打ちに使用。産地は奈良県吉野郡。
福西 正行 制作 楮100%手漉き 木灰炊き 白土入り

養生紙(ポリエステル紙、レーヨン紙)

合成繊維の紙。敷き紙や画面の仮養生などで使用する。剥がしやすい、剥がしたときに繊維が残らない等の条件がある。

修復に使用する道具には、実に様々な種類の刷毛や筆があります。
特に、繊細な作品に糊づけする際などに用いる刷毛には、数多くの種類があり、用途や和紙の材質などに合わせて使い分けが必要です。

糊刷毛(のりばけ)

主に、糊を紙全体につけるときに使用する刷毛です。
クマ毛(馬のたてがみ)や豚毛を用いたものがあり、糊の含みがよくなるように作られています。

水刷毛(みずはけ)

水分や湿りを与えるための刷毛で、柔らかいのが特徴です。
狸毛、鹿毛、羊毛・山羊の毛などが用いられています。
柔らかい羊毛に腰を持たせるために、馬毛や鹿毛をミックスしたゴマという種類の刷毛もあります。

打ち刷毛(うちばけ・上)

掛け軸や巻子の増・総裏打ちで古糊を使って増し裏打ち、総裏打ちをする際、撫刷毛で撫で付けた後、さらによく接着させるために毛先で紙を打つ作業を行う時に使用します。 シュロとツクモの混合です。

撫刷毛(なでばけ・下)

裏打ちを行った後、撫でつけるために使用する刷毛です。
毛は動物のものではなく、ヤシ科の植物繊維でできています。
柔らかい繊維が使われている棕櫚(シュロ)と、硬めの津久毛(ツクモ)の2種類があります。

上記のほかにも色々な刷毛があります。また、筆も多種多様なものがあり、刷毛同様に用途によって使い分けが必要です。そのほか、小刀や丸包丁といった刃物類、各種ヘラ、作品調査時に使用するライト類や温度計から、大型のプレス機などまで、様々な道具があります。

長期保存と修復を繰り返し行えるようにするためには、次回の修復を考えて処置しなければなりません。
伝世舎では、新たな技術を柔軟に受け入れながらも、伝統的な修復方法の基本方針である
“次の処置時に除去できる可逆性のある材料の使用”にこだわっています。

接着剤

生麩糊(しょうふのり)・新糊

純粋な小麦粉澱粉(生麩)を煮たものを生麩糊といいます。
伝世舎では、精製水を使用して煮ています。防腐剤が入っていないため、毎回必要な量だけを作って使い切ります。
このようにして煮た糊が新糊(または沈糊)です。これを糊漉しで漉した後、練り、用途に応じて精製水で薄めて使用しています。

古糊

新糊を数年~10年程寝かせた、接着力の弱い糊のことです。
1月~2月の寒い時期に新糊を大量に作り、瓶に入れて蓋をし、風通しのよい冷暗所に長期保管して作ります。
主に、掛け軸や巻子の増裏打ちや総裏打ちに使用する糊で、巻くときに柔らかさのある仕上がりになります。

その他の接着剤

膠(にかわ)・布海苔・メチルセルロース

伝世舎では、作品に影響を及ぼす不純物を取り除いた精製水を使用しています。
殺菌用の塩素やミネラルなどが含まれていたり、赤錆やカビの臭いがあったりする水道水や井戸水を、そのまま使用することはありません。必ずイオン交換をした後、蒸留した精製水を使用しています。

表具材料

裂(きれ)

掛け軸・額・巻子・屏風などの装丁に使用します。
予算に応じて色々な種類の裂をご用意しております。
高額になりますが、新たに織ることも可能ですので、ご希望の場合はご相談ください。

その他の表具材料

軸首・紐など、表装に欠かせない材料を豊富に取り揃えております。ご予算やご要望に応じてお選びいただけますので、お気軽にご相談ください。