修復・保存事例
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修復の実例紹介

美術品の修復は、作品の大きさや状態によって費用も変わります。以下に修復例をご紹介いたしますので、修復費用のご参考にしてください。

事例 1: 全体の修復を行う場合

全体修復費: 400,000円  中性紙布貼りケース: 8,000円  消費税: 20,400円  修復費合計: 428,400円

事例1修復前/修復後
  • 作品名:松図
  • 作家名:池上秀
  • 種類:掛軸装/紙本墨画 1幅
  • 表具寸法(縦×横):1,985mm×411mm
  • 作品寸法(縦×横):1,274mm×292mm
状態
  • 掛軸全体が経年による埃塵で汚れていた。表具裂が経年により色あせていた。
  • 掛軸全体に横折れと皺が見られた。
  • 掛軸全体に虫糞などの付着物が見られた。
  • 掛軸全体に茶色の斑点が点在していた。
  • 裏面裏打ち紙が糊離れを起こして浮き上がっている箇所が見られた。
  • 以前に修理がされていて、作品下方の横折れ部分に裏面から補強の紙が貼ってあった。
    その周辺だけ作品の厚さが薄くなっていてムラが生じていた。
修復方針
  • 掛軸を解体して、作品の修理を行い、新たに掛軸に仕立て直す。
  • 作品の汚れや染みは、作品自体に掛かる負担を小さくすることを考慮しながら、クリーニングを行う。そのため、作品全体はすっきりした様相になるが汚れや染みなどの完全な除去までは行わず、軽減に留めておく(無理に漂白などの処置で汚れや染みの除去を行うと作品にかなりの負担が掛かり、今後脆弱化して劣化を促進させる危険性があるため)。
  • 表具裂が色あせていたので、以前と似た雰囲気の裂に新調する。軸首も傷がついていたので、新調する。
  • 収納箱は、再使用する。布貼り中性紙ケースと包み布は新調する。
処置
1.修理前の写真撮影、状態調査
2.掛軸の解体
3.作品の処置
ドライクリーニングを行い、表面の汚れを軽減させた。
虫糞などの付着物を除去した。
墨字部分と朱印に膠水溶液を塗布して剥落止めを行った。
クリーニング
作品全体にウェットクリーニングを行った。
作品を精製水で湿らせた吸い取り紙で挟み、クリーニングを行った。
その吸い取り紙に汚れを吸着させて、全体の汚れなどを軽減させた。
クリーニングは吸い取り紙を取り替えながら数回行った。
旧裏打ち紙の除去
肌裏打ち
増裏打ち
厚み調整
作品の厚みにムラがある箇所に、そのムラを緩和させるための調整を行った。
折れ入れ
きつい横折れが生じていた箇所に、細い帯状の紙をあてて補強した。
4.掛軸の仕立て
5.修復後の写真撮影、報告書の作成
6.収納
再使用の桐材印籠箱の汚れを軽減させた。
性紙布貼りケースに収納した。
使用した材料
表装裂
総縁裂(そうべりきれ):正絹縹(はなだ)地斜子
一文字(いちもんじ):正絹白茶地小花飛び紋本金襴
軸首
紫檀切軸
肌裏打ち紙、折れ入れ紙:薄美濃紙(長谷川聡制作 手漉き楮紙)
増裏打ち紙、中裏打ち紙、厚み調整:美栖紙(上窪正一制作 胡粉入り手漉き楮紙)
増総裏打ち紙:宇陀紙(福西弘行制作 白土入り手漉き楮紙)
接着剤
剥落止め:三千本膠
肌裏打ち、折れ入れ、掛軸の仕立てなど:生麩糊(小麦澱粉糊)
増裏打ち、総裏打ち、厚み調整:古糊
収納
包み布:羽二重(無蛍光漂白の絹)
中性紙布貼りケース
事例 2: 部分的な修復を行う場合

部分的修復費: 80,000円  収納箱: 収納箱の調整・箱覆い・中性紙布貼りケース: 20,000円
消費税: 5,000円 修復費合計:105,000円

事例2修復前/修復後 箱修理前/箱修理後
  • 作品名:敏長肖像 并 自筆歌
  • 作家名:小林天渕
  • 種 類:掛軸装/紙本淡彩1幅
  • 表具寸法(縦×横):790mm×281mm
  • 作品寸法(縦×横):1,550mm×381mm
状態
  • 掛軸全体が経年による埃塵で汚れていた。
  • 掛軸の数箇所に強い横折れが見られた。
  • 掛軸全体に波打ちのような変形が見られた。
  • 掛軸全体に虫糞などの付着物が見られた。
  • 作品や裏面に褐色の斑点が点在していた。
  • 掛軸の真ん中に虫損による穴が縦一列に点在していた。掛軸の下方にも虫損が見られた。
    巻いて保管しているときに虫損の被害にあったと考えられる。
  • 紐が脆弱化していて、掛軸を掛けるには危険な状態であった。
  • 収納箱が汚れていた。
修復方針

掛軸は、損傷の受けている部分を処置すれば十分に鑑賞できるので、部分的処置に留めた。

処置
1.修理前の写真撮影、状態調査
2.作品の処置
ドライクリーニングを行い、表面裏面の汚れを軽減させた。
虫糞などの付着物を除去した。
欠失部分に繕いを行った。
クリーニング
厚みを調整するために3層の紙を欠失部分と同じ形に整え貼った。
裂の部分には似た裂を貼り、本紙部分には似た紙を貼った。色味の調整を行った。
折れ入れ
きつい横折れが生じていた箇所に、細い帯状の紙をあてて補強した。
紐を新たにつけた。
掛軸全体の変形の緩和
掛軸に軽い湿りを入れて伸ばしプレスをした。
3.収納
再使用の桐材収納箱の汚れを軽減させた。
蓋覆いと紐を新調した。
中性紙布貼りケースを新調して、収納した。
使用した材料
紙・裂
折れ入れ紙:八女楮紙(溝田 義秋 制作 手漉き楮紙)
厚み調整:宇陀紙(福西弘行製作 白土入り手漉き楮紙)
補紙:八女楮紙(溝田 義秋 制作 手漉き楮紙)
補絹:古代しけ
接着剤
生麩糊(小麦澱粉糊)
収納
中性紙布貼りケース
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用語解説

裏打ち(うらうち)
東洋の絵画や書などの作品は、紙や絹など非常に脆弱な素材に描かれています。裏打ちとは、そのような作品を支持し補強するために紙を裏に貼りつけることです。
裏打ち紙の除去(うらうちがみのじょきょ)
生麩糊で裏打ちされた紙は、水を与えることで除去することができます。これは表具技術の大きな長所であり、数百年以上にわたって引き継がれてきた技術です。そのため、裏打ちをする際には紙、糊の選択が重要になってきます。化学糊を使用した場合、除去は容易ではなく、作品を傷める原因にもなってしまいます。
絵具の剥落止め(えのぐのはくらくどめ)
絵具は顔料や染料を膠水溶液で溶いたものです。書画の彩色層は、時間を経ると膠がかれてきて、接着力が弱くなり彩色層の絹や紙からの剥離が生じてしまいます。そのため、彩色層の強化と再接着をするために、膠水溶液を補給する必要があるのです。剥離部分の再接着は彩色層の下に膠水溶液を注入して、乾燥するまで重しをかける方法で行います。
折れ伏せ(おれふせ)
肌裏打ち、増裏打ちの後、作品の折れやすい箇所に沿って帯状の薄い紙で補強すること。「折れ」「折れ当て」とも言います。
巻子(かんす)
巻物のこと。
切り継ぎ(きりつぎ)
別工程で進められてきた作品と表具裂を継いで、掛軸の体裁を整える工程。「付け廻し」とも言います。
クリーニング
作品を洗浄すること。ウエット・ドライの方法があります。
ウエットクリーニング
水を使って汚れを軽減させること。水は精製水を使用し、作品の状態によって適切な方法を選択する必要があります。
ドライクリーニング
水を使わずに画面表面の汚れを軽減させること。さらに虫糞等の付着物も除去します。衣服のドライクリーニングのように、油や溶剤を使用するものではありません。
絹本(けんぽん)
絹地(絵絹)に描かれた書画、または表具したもの。彩色が施されたものについては絹本着色と言います。→紙本
酸性紙(さんせいし)
紙面の酸性度(ddH)が約6.5以下の紙。紙は酸性化により劣化するため長期保存には向きません。また、周囲の紙等を酸化させる原因にもなります。→中性紙
紙本(しほん)
紙に描かれた書・画・文書。→絹本
総裏打ち(そううらうち)
掛軸や巻物の裏面を整えるために裏を打つこと。開いたり巻いたりするときに滑らかになるように、平滑に仕上げる必要があります。宇陀紙に、古糊を使い打ち刷毛で打って接着した後、撫で刷毛で入念に撫でつけます。
中性紙(ちゅうせいし)
紙面の酸性度(ddH)が約7前後の紙。弱アルカリ紙も含まれます。酸性化の速度を抑えられるため、長期保存に適しています。→酸性紙
中裏打ち(なかうらうち)
掛軸として一体になった後、さらに裏打ちを施すことを中裏打ちと言います。美栖紙、宇陀紙を使用し、古糊と打ち刷毛で接着。小品の場合は省略することもあります。
糊浮き(のりうき)
作品や表具裂の裏打ち紙が剥がれていること。
肌裏打ち(はだうらうち)
東洋の絵画や書などの作品は、紙や絹など非常に脆弱な素材に描かれています。そのような作品を支持し補強するための紙を直接裏に貼りつけることを肌裏打ちと言います。作品が絹の場合は柔らかいペースト状の糊、紙の場合は水状の薄い糊を使用。主に薄美濃紙を使用しますが、作品に直接貼りつけるため、紙と糊の選択には十分な配慮が必要です。
補絹・補紙(ほけん・ほし)
作品の欠失部分の形に従って絹または紙を繕うこと。絹は補絹、紙は補紙と呼びます。作品の風合いや材質、強度などに近い絹や紙を選択し、加工して使用します。
本紙(ほんし)
作品本体のこと。絹本でも本紙と呼びます。
増裏打ち
肌裏を打った後、さらに施す裏打ちのことです。必要に応じて複数回行います。掛軸の場合は、表具裂との厚みや収縮を調整。美栖紙、大判美栖紙に、古糊を使い撫で刷毛で撫でつけ、打ち刷毛で圧着させます。
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